長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 内臓機能生理学
Department of Physiology of Visceral Function and Body Fluid, Graduate School of Biomedical Sciences, Nagasaki University 

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神経系と免疫系から腎疾患を理解する

 私たちは、神経系が免疫応答をどのように制御し、それが腎障害や組織修復にどのような影響を与えるのかを研究しています。迷走神経や交感神経を起点とする神経―免疫―臓器連関に着目し、動物モデル、神経刺激、分子生物学、オプトジェネティクス、シングルセル解析など、多様な手法を組み合わせてそのメカニズムを解き明かしています。「神経を操作すると、なぜ腎臓が守られるのか」。その問いを一つひとつ解明し、基礎研究から新しい腎疾患治療へつなげることを目指しています。

コリン作動性抗炎症経路

 かつて、神経系と免疫系はそれぞれ独立したシステムとして考えられていました。しかし現在では、神経からのシグナルが免疫細胞の働きを変化させ、炎症や臓器障害を制御することが明らかになってきています。その代表的な仕組みが、左上の図に示す cholinergic anti-inflammatory pathway(CAP:コリン作動性抗炎症経路) です。迷走神経を起点とする神経シグナルが免疫系へ伝わり、最終的にアセチルコリンがマクロファージなどの免疫細胞に作用することで、過剰な炎症反応が抑制されます。
 私たちはこの仕組みに早くから注目し、迷走神経を刺激することで急性腎障害(AKI)が軽減されること、さらにその腎保護作用に脾臓の免疫細胞が重要な役割を果たすことを明らかにしてきました。その後、中枢神経から末梢神経、脾臓、免疫細胞、そして腎臓へとつながる神経―免疫ネットワークの解明を進めるとともに、交感神経を介した新たな腎保護機構へと研究を広げています。特にAKIにおける神経―免疫連関について、私たちは世界に先駆けてさまざまな知見を報告してきました。
 一方、神経―免疫連関は、脳、末梢神経、免疫細胞、腎臓など、複数の臓器や細胞が相互に関わる複雑なシステムです。どの神経が働き、どの細胞がそのシグナルを受け取り、最終的にどのような仕組みで腎臓が守られるのか。その全体像には、まだ多くの謎が残されています。
 私たちは、この複雑な仕組みを一つひとつ解き明かすため、神経活動を操作する技術、細胞一つひとつの変化を捉える解析技術、そして新しい神経刺激法の開発など、多様なアプローチを組み合わせて研究を進めています。神経科学、免疫学、腎臓病学を横断しながら、基礎研究で得られた発見を将来の新しい治療法へとつなげることを目指しています。

Optogenetics(オプトジェネティクス)|光で神経を操作する

 神経には、それぞれ異なる役割をもつさまざまな種類があります。Optogenetics(光遺伝学)を用いると、その中から特定の神経だけを選択し、光によって刺激したり、その活動をコントロールしたりすることができます。私たちはこの技術を用いて、「どの神経が腎臓を守るのか」「神経からのシグナルがどのように免疫系や腎臓へ伝わるのか」を研究しています。従来の電気刺激では複数の神経が同時に刺激されることがありますが、オプトジェネティクスでは特定の神経を選択的に操作できるため、複雑な神経―免疫ネットワークを一つひとつ解き明かすための強力なツールとなります。
 下の写真は、自由に行動しているマウスの頚部迷走神経をワイヤレスで光刺激(青色光)している様子です。生理的な状態をできるだけ保ちながら神経活動を操作することで、神経刺激が炎症や腎障害に与える影響を解析しています。

シングルセル解析|一つひとつの細胞を見る

  腎臓や免疫組織は、さまざまな種類の細胞から構成されています。シングルセル解析(一細胞解析)を用いることで、組織全体を平均して見るのではなく、一つひとつの細胞が神経刺激にどのように反応し、その中でどのような遺伝子や分子の変化が起こっているのかを詳しく解析することができます。
 私たちは、国内の腎臓研究領域に先駆けて一細胞解析を研究に取り入れ、解析技術やノウハウを蓄積してきました(下の図はJ Am Soc Nephrol 2021より引用)。 現在では、この技術を神経―免疫―腎連関の研究に応用し、神経刺激に反応する細胞を見つけ、その細胞で起こる変化を捉えることで、これまで見えていなかった新しい腎保護メカニズムの発見を目指しています。
 また、これまでに培ってきた解析技術を生かし、国内外の研究室との共同研究を通じて、一細胞解析やデータ解析の支援も行っています。 自分たちの研究だけにとどまらず、さまざまな疾患や研究テーマに一細胞解析を応用することで、新たな研究の広がりにつなげています。

超音波刺激|体の外から神経を刺激する

  超音波は、体の外から超音波を照射することで神経活動を変化させる、新しい神経刺激技術です。電極を神経に留置する従来の方法とは異なり、体を傷つけることなく神経系へ働きかけられる可能性があることから、低侵襲な治療法として注目されています。
 私たちは、腹部への超音波刺激が迷走神経求心路を活性化することを明らかにしました(PNAS 2026)。 さらに、この刺激が神経―免疫系に働きかけ、炎症反応や臓器障害を抑制する仕組みについて研究を進めています。「体の外から神経を刺激して、炎症や腎障害を治療する」ことを目指し、その作用機序の解明から、将来の臨床応用につながる新しい治療技術の開発まで取り組んでいます。

Neuroimmune interactions across organs|多臓器における神経―免疫連関

 神経―免疫連関は、腎臓だけに限られた仕組みではありません。私たちは、神経系と免疫系の相互作用がさまざまな臓器の炎症や組織障害にどのように関わるのかという視点から、研究対象を全身へと広げています。
 現在、気管支喘息(Front Immunol 2026)、放射線による咽頭・声帯障害(Lab Anim Res 2024、Laryngoscope 2025)、間質性膀胱炎、動脈硬化(BBRC 2022)、高血圧(BBRC 2024、J Physiol Sci 2024)などを対象に、それぞれの臓器における神経―免疫連関の役割と、その制御による新しい治療法の可能性を研究しています。腎臓で培ってきた神経操作や免疫解析の技術を他臓器へ展開することで、臓器を越えて共通する神経―免疫制御の原理を明らかにすることを目指しています。

Research tools & technologies|研究を支える技術と設備

 当研究室では、大腸菌を用いたクローニングなどの分子生物学的実験から、培養細胞、組織解析、さらにマウス個体での機能解析まで、一連の研究をラボ内で完結できる環境を整えています。分子・細胞・組織・個体という異なる階層を横断して解析できることが、私たちの研究基盤の大きな特徴です。
 研究室内には、サーマルサイクラー、リアルタイムPCR装置、エレクトロポレーター、細胞培養・低酸素培養設備、プレートリーダーなどの基本的な分子・細胞生物学的設備に加え、Attune NxT Flow Cytometer(3レーザー・11カラー)、MACS / autoMACS、Wes、KEYENCE BZ-X1000、EVOS M5000、Nikon ECLIPSE Ci-L、10x Genomics Chromium iXなどを備えています。これらを用いて、免疫細胞解析、タンパク質解析、イメージング、シングルセル解析まで幅広く対応しています。
 動物実験施設では、非観血的・観血的血圧測定、テレメトリー、血流測定、メタボリックケージ、血液ガス・乳酸測定などによる生理機能解析に加え、三眼式実体顕微鏡、オプトジェネティクス用レーザー・制御システム、超音波刺激装置、神経活動記録装置などを備えています。神経活動を操作・記録しながら、循環、腎機能、免疫応答、臓器障害を個体レベルで解析することが可能です。
 このように、分子機構の探索から生体内での機能検証までを一貫して行えることが私たちの強みです。また、これらの技術基盤を活用し、国内外の研究機関との共同研究も積極的に進めています。シングルセル解析、免疫細胞解析、イメージング、生体機能解析、神経刺激・記録などを活用した共同研究についても、幅広くご相談を歓迎しています。